熱中症対策マニュアル(ひな形)

query_builder 2025/07/11
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熱中症対策マニュアル

はじめに

熱中症という現象は、私たち一人ひとりの健康問題であると同時に、私たちの社会が自然との調和を見失いつつあることを示す、地球からの静かな、しかし重大な警告であると、私たちは認識します。

このマニュアルは、猛暑から従業員の生命を守るための具体的な手引きです。しかし、その一節一節は、「どうすれば私たちは、自然という偉大なシステムの一部として、より賢く、より謙虚に、そして持続可能な形で活動できるのか」という、私たち自身への、そして未来への問いかけでもあります。

私たちは、この問いから目をそらさず、日々の業務を通じて、その答えを探し続けることをここに誓います。


1章 基本理念と私たちの責務

1.1 本マニュアルの目的

本マニュアルは、地球温暖化やヒートアイランド現象、社会構造の変化によって増大する熱中症リスクに対し、従業員の生命と健康を守ることを最優先として策定されたものです 。

さらに本マニュアルは、猛暑の中で業務を遂行する従業員が抱える、目に見えないプレッシャーや判断の迷いといった『心の負担』にも着目します。体だけでなく心の健康も守ること、そして現場で起きる一つ一つの出来事から全員で学び、未来の仲間たちのために、より安全な働き方を築き上げていくことも、本マニュアルの重要な目的です 。

1.2 私たちの基本方針

  1. 生命の尊重 従業員の生命と健康を最優先とし、熱中症によるいかなる健康被害も未然に防ぎます 。
  2. 予防原則 症状が現れる前の予防対策を徹底し、危険な環境下での活動を極力回避することを基本とします 。
  3. 社会への働きかけ 私たちは、自社の安全確保に全力を尽くすことはもちろん、その活動を通じて得られた知見や課題(例えば、企業努力だけでは困難な正確なWBGT値の計測環境など)を社会へ発信し、より安全な社会インフラの整備を働きかけることも、企業の重要な社会的責務であると考えます 。
  4. 未来への改善 このマニュアルは完成品ではありません。現場で起きた体験や気づきは、未来の仲間たちの命を守る、会社にとって最も貴重な資産です。本マニュアルを全従業員で継続的に改善していくことを基本方針とします 。


2章 「見えないリスク」への理解:身体と心の状態把握

2.1 熱中症の基礎知識

熱中症は、体温調節機能がうまく働かなくなることで発症し、重症度によって以下の3段階に分類されます。症状が軽いうちに、いかに早く気づき、対処するかが重要です 。

  • 度(軽症)
    • 症状: めまい、立ちくらみ、筋肉痛、こむら返り、大量の発汗など 。
    • 意識: はっきりしている 。
  • 度(中等症)
    • 症状: 頭痛、吐き気、嘔吐、強い倦怠感、虚脱感、判断力の低下など 。
    • 意識: 呼びかけへの反応が鈍い、言動がおかしい場合がある 。
  • 度(重症)
    • 症状: 意識がない、けいれん、手足の運動障害、異常な体温(40℃以上)など 。
    • 意識: 呼びかけに反応しない、生命の危機がある状態 。

2.2 身体的セルフチェック

業務開始前には、必ず自身の身体的状態を確認してください。一つでも不安な点があれば、無理をせず上長に報告してください 。

  • 睡眠: 十分な睡眠はとれましたか?
  • 食事: バランスの取れた食事、特に朝食を摂りましたか?
  • 飲酒: 前日に深酒をしていませんか?(アルコールは脱水を招きます)
  • 体調: 発熱、下痢、倦怠感など、普段と違う症状はありませんか?
  • 持病: 自身の持病(高血圧、糖尿病など)が熱中症リスクに影響することを認識していますか?

2.3 精神的リスク指標『判断負荷』

熱中症のリスクは、気温や湿度といった物理的環境だけではありません。私たちは、もう一つの「見えないリスク」を定義します。それが『判断負荷』です。

これは、業務遂行上で発生する精神的なプレッシャーや、相反する要求による判断の迷いを指します。この『判断負荷』は、暑さそのものと同じくらい、あるいはそれ以上に、正常な判断能力を奪い、危険な状況を招く可能性があります

  • 具体例:
    • 「お客様の期待に応えたい」という思いと、「自分の体は限界に近い」という感覚の板挟み 。
    • 工期や周囲の目を気にするあまり、休憩や水分補給をためらってしまう焦り。
    • 「自分は体力があるから大丈夫」という過信や、「これくらいの暑さは経験済みだ」という油断 。

2.4 精神的セルフチェック

身体的チェックと合わせ、自身の『判断負荷』についても常に自問してください。

  • 焦り: 気持ちに焦りはありませんか?
  • 過信: 過信や油断はありませんか?
  • 迷い: 判断に迷いや、強いプレッシャーを感じていませんか?
  • 違和感: 「何かおかしい」と感じる、言葉にできない違和感はありませんか?

これらの『心の疲れ』は、熱中症の危険なサインです。一人で抱え込まず、次の章で示す「相互確認」を通じて、必ず同僚や上長と共有してください。


3章 具体的な予防行動

  1. 計画的な水分・塩分補給
    • 「喉が渇く」前に、計画的に水分を摂取してください 。
    • 作業強度にもよりますが、2030分に1回、コップ1杯(約200ml)程度の摂取が目安です 。
    • 大量に汗をかく場合は、スポーツドリンクや経口補水液、塩分タブレットで塩分・ミネラルも補給してください 。
  2. 計画的な休憩の確保
    • 作業強度やWBGT値に応じた計画的な休憩を必ず確保してください 。
    • 休憩は、日陰や冷房の効いた場所でとり、体をしっかり休ませてください 。
  3. 服装の工夫
    • 通気性、吸湿速乾性に優れた素材の作業服やインナーを着用してください 。
    • 屋外では、ヘルメットインナーやネッククーラーなどを活用し、直射日光や照り返しから体を守ってください 。
  4. 暑熱順化
    • 本格的な夏が来る前から、軽い運動などで汗をかく習慣をつけ、体を暑さに慣らしておく(暑熱順化)ことが極めて重要です 。


4章 暑さ指数(WBGT)に基づく行動基準

私たちは、環境省などが提供する暑さ指数(WBGT)の予測値を、行動の客観的基準として積極的に活用します 。事業所や各現場では、毎朝その日のWBGT予測値を掲示し、全員で危険度を共有します 。

4.1 WBGT値と行動基準

  • WBGT 28℃以上 31℃未満(注意が必要な日)
    • 30分に1回以上、10分程度の休憩を確保してください 。
    • より意識的な水分・塩分補給を徹底してください 。
    • 作業内容の見直し(軽作業への変更など)を検討してください 。
    • 体調に異変を感じた場合、または状況が改善しない場合は、作業停止を申告してください 。
  • WBGT 31℃以上(さらに危険な日)
    • 原則として、屋外での作業は中止してください 。
    • やむを得ず作業を行う場合でも、作業は極めて短時間に限定し、20分に1回以上の休憩を確保してください 。
    • 体調にわずかでも異変を感じたら、即座に作業を停止してください 。


5章 緊急時の対応プロトコル

5.1 相互確認(声かけ)の深化

熱中症は自覚が難しい場合があります。共に働く仲間同士での相互確認は、命を守る最後の砦です 。

  • 体調面の声かけ: 「顔色が悪いけど大丈夫か?」「汗のかきかたが異常じゃないか?」など、客観的な変化を伝えましょう 。
  • 精神面の声かけ: 「何か判断に困っていることはないか?」「一人で抱え込んでいないか?」など、相手の『判断負荷』を気遣う声かけを積極的に行いましょう。

5.2 症状発見時の応急処置

熱中症が疑われる隊員を発見した場合、直ちに以下の対応を行ってください 。

  1. 涼しい場所へ移動: 日陰や冷房の効いた安全な場所へ避難させます 。
  2. 体を冷やす: 衣服を緩め、首の付け根、脇の下、足の付け根などを、冷たいタオルや保冷剤で集中的に冷やします 。
  3. 水分・塩分補給: 意識がはっきりしている場合、経口補水液やスポーツドリンクを少量ずつ飲ませます 。
  4. 安静と観察: 無理に動かさず、安静にさせながら、慎重に症状の経過を観察します 。

5.3 報告・連絡体制と救急要請

  • 即時報告: 自身の体調不良、または仲間の異変に気づいた場合、直ちに上長へ報告してください 。
  • 救急車要請(119番): 以下の場合は、ためらわず救急車を要請してください 。
    • 呼びかけに反応しない、または言動がおかしい(度・度の疑い) 。
    • 自力で水分補給ができない 。
    • 応急処置をしても症状が改善しない 。
  • 緊急連絡先: 社内安全管理責任者および最寄りの医療機関リストは、各現場で常に携行・共有してください 。


6章 お客様との連携プロトコル(外部連携)

私たちの安全確保は、お客様との深いご理解と連携なくしては成り立ちません

  1. プロトコルの事前提出と合意形成 新しい現場での業務開始前に、本マニュアルの概要、特にWBGTに基づく作業停止基準や緊急時の対応フローを、お客様に提出し、事前に十分な協議と合意形成を図ります 。作業の中断・停止は、結果として重大事故を防ぎ、プロジェクト全体の安全と信頼性を高めることに繋がるという認識を共有します 。
  2. 独自の判断と離脱の権限 私たちは、WBGT値や隊員の体調に基づき、作業の継続が危険であると判断した場合、お客様および社内責任者へ報告の上、作業を停止する権限を有します 。報告後も状況が改善されず、生命の危険があると判断される場合は、自身の安全を最優先し、現場から離脱する権限を有することを、会社の公式な方針とします


7章 未来への資産:改善提案と私たちの役割

  1. ヒヤリハット報告の義務 熱中症を発症するに至らなかったとしても、「危なかった」「ヒヤリとした」という経験は、全て報告してください。その一つ一つが、未来の事故を防ぐための最も貴重なデータとなります。
  2. マニュアル改善提案 このマニュアルは、現場で働く皆さん一人ひとりの知恵と経験によって、より良いものへと進化していきます。「こうすればもっと良くなる」という改善提案を、いつでも積極的に行ってください。
  3. 私たちの責務 ヒヤリハット報告や改善提案は、単なる業務ではありません。それは、この組織をより安全な場所にし、未来の仲間たちへより良い環境を手渡すための、全従業員に課せられた最も創造的で、価値ある責務です。

結び

私たちは、このマニュアルという道具を手に、日々の業務にあたります。 しかし、私たちは決して忘れません。このマニュアルが真に価値を持つのは、その文字の一つ一つに、自然への畏敬の念と、共に働く仲間への深い思いやりが宿る時だけであるということを。

私たちは、庭の主にあらず。

庭の一部なり。

ご安全に。



※ 企業の責任と公共性への配慮の限界、物理的側面に偏らない基準・プロトコル、硬直しない規定という点を意識して作成してあります。
※ 作業環境の把握、対策の明示、隊員への周知の方法がしっかりしていることが最低限の企業責任と考えています。(これを抑えて、実践している限り、事故は未然に防げるし、万一、事故が発生したときもシステムを構築した企業の責任にはなりにくいという判断をしています。)

 


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O.A.E. 株式会社

住所:愛知県津島市東柳原町3-17-2

電話番号:0567-69-5391

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