第5回:事例から学ぶ憲法・刑法の重要性~法律を知っていると、いざという時、きっと役に立つ~
「法律って、難しそうだし、普段の仕事には関係ないんじゃない?」 そう思っている人もいるかもしれません。 でも、これまでの連載で見てきたように、憲法や刑法の考え方は、私たちの仕事や生活のあらゆる場面に関わっています。 今回のテーマは、「事例から学ぶ憲法・刑法の重要性」。 これまでの内容を踏まえ、具体的な事例を通して、法律の知識が、警備員の仕事にどのように役立つのかを考えていきます。 「あの時、どうすればよかったんだろう?」と悩んだ経験がある人も、きっと今回の内容が参考になるはずです。
5.事例から学ぶ憲法・刑法の重要性~法律を知っていると、いざという時、きっと役に立つ~
これまでの連載で、憲法や刑法の基本的な考え方と、それが警備員の仕事にどのように関わってくるのかを見てきました。 でも、「言葉で説明されても、いまいちピンとこないな…」と感じている人もいるかもしれません。 そこで、今回は、具体的な事例をいくつか提示し、それぞれの場面で、憲法や刑法のどの原則や条文が関係してくるのかを解説していきます。
5.1 事例1:通行止めに不満を持つ人が、強引な通行を試みた場合
あなたが工事現場で交通誘導をしているとします。 通行止めになっている道路に、一台の車が近づいてきました。 あなたは、運転手に通行止めであることを説明し、迂回路を指示しましたが、運転手は納得せず、「急いでいるんだ!通せ!」と怒鳴り、強引に通行しようとしました。 あなたはどう対応しますか?
この場面では、憲法の「公共の福祉」の考え方が最も重要になります。道路工事は、老朽化した道路の補修や、より安全で快適な道路を整備するために行われるものであり、その目的は多くの人々が安全かつ円滑に道路を利用できるという「公共の福祉」に資するものです。一時的な通行止めは、工事の安全を確保し、より早く工事を完了させるために必要な措置であることを理解してもらう必要があります。
強引な通行を試みる運転手への対応:
1. 冷静な声かけと丁寧な説明:まずは、感情的にならず、丁寧な言葉遣いで通行止めの理由(工事内容、期間、迂回路など)を改めて説明し、協力を求めます。「皆様の安全確保と、より良い道路環境のために、ご理解とご協力をお願いいたします」といった伝え方が効果的です。
2. 公共の福祉を説明する:工事の目的が、個人の都合よりも優先されるべき「公共の福祉」のためであることを丁寧に説明します。「この工事は、地域の皆様が安全に通行できるよう、重要な補修作業を行っております。ご協力いただけると幸いです」といった具体的な説明を加えることで、理解を得やすくなることがあります。
3. 安全な迂回路の提示:迂回路の情報を具体的に伝え、安全な走行を促します。地図を示したり、所要時間を伝えることも有効です。
4. 他の警備員や責任者との連携:必要に応じて、他の警備員や現場責任者に状況を報告し、指示を仰ぎます。複数で対応することで、冷静さを保ち、より適切な対応ができる場合があります。
5. 記録と警察への連絡:運転手が全く聞く耳を持たず、強引な通行を続けようとする場合や、暴言・暴力行為に出る可能性がある場合は、無理に制止しようとせず、安全な場所に退避し、状況を記録した上で速やかに警察に通報します。
「正当防衛」について:
運転手が強引に通行しようとする行為は、直ちに警備員の身体や他の通行人の安全に対する「急迫不正の侵害」とは言えない場合が多く、安易に「正当防衛」を主張して物理的な阻止行為に出ることは、更なるトラブルや自身の危険を招く可能性があります。特に「車の前に立ちはだかる」行為は、警備員自身が重大な傷害を負う可能性があり、推奨されるべきではありません。
正当防衛は、あくまで自己または他人の生命、身体に対する明白な危険が差し迫った際の最終手段として検討されるべきであり、その範囲も状況によって厳しく判断されます。交通誘導の現場においては、まずは冷静な対話と説明、そして警察への適切な通報が、より安全で適切な対応となります。
新築工事などの場合:
新築工事などの場合も、個人の生活空間の創出という側面から見れば、地域社会の活性化や経済活動の一環としての「公共の福祉」に繋がるという考え方もできます。もちろん、騒音や交通への影響など、周辺住民への配慮は不可欠ですが、その工事が社会全体にとって一定の利益をもたらすものであれば、一時的な不便に対して理解を求めるという姿勢が重要になります。
5.2 事例2:警備員が、通行人から暴言や威嚇、または暴行を受けた場合
あなたが交通誘導をしていると、通行人の一人が、あなたの誘導に従わず、激しい文句を言い始めました。あなたは、冷静に説明を続けましたが、通行人は興奮し、あなたに対して侮辱的な言葉を浴びせかけたり、威嚇的な態度を取ったり、さらには殴り倒してしまいました。あなたはどう対応しますか?
この場面では、まず冷静に対応することが重要であり、状況に応じて刑法の「正当防衛」の考え方が適用される可能性があります。また、暴言やクレームへの適切な対処も職業人として求められます。
暴言・クレームへの対応:
1. 冷静な傾聴と丁寧な説明:まずは相手の言い分を冷静に聞き、感情的に反論するのではなく、相手の立場や感情に寄り添う姿勢を示します。「ご不便をおかけして申し訳ございません」「何かご不明な点がございましたでしょうか」といった言葉で、状況の沈静化を図ります。誘導の理由や規則について、根拠を示しながら丁寧に説明することも重要です。
2. 記録と報告:暴言の内容、時間、場所、相手の特徴などを可能な範囲で記録し、速やかに上司や会社に報告します。組織として対応を検討する上で重要な情報となります。
3. 感情的な言動を慎む:相手が感情的になっている場合でも、 職業人である警備員は冷静さを保ち、感情的な言葉や態度で応じることは避けるべきです。職業人としての自覚を持ち、常に丁寧な対応を心がけましょう。
4. 周囲の協力を求める:他の警備員や現場責任者がいる場合は、状況を共有し、必要に応じて助けを求めます。
身体的な暴行を受けた場合の「正当防衛」:
通行人から殴り倒されるなどの「不当な攻撃」を受けた場合、あなたには、その攻撃から自分を守るために、やむを得ない範囲で、反撃する行為(例えば、相手を突き飛ばす、組み付くなど)を行うことが、刑法の「正当防衛」(刑法第36条)として認められる可能性があります。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 急迫不正の侵害: 暴行が現に行われている、または差し迫った危険がある状況であることが必要です。
- 自己または他人の権利を防衛するため: 自分の身を守るため、または他の人を守るための行為である必要があります。
- やむを得ずにした行為: 攻撃を回避するために、他に適切な手段がない状況である必要があります。
- 必要最小限の行為: 反撃の程度は、相手の攻撃の程度に見合った、必要最小限のものでなければなりません。相手が一度殴ってきただけで、一方的に殴り返したり、相手を必要以上に傷つけたりする行為は、正当防衛の範囲を超える「過剰防衛」とみなされ、罰せられる可能性があります。
暴行後の対応:
暴行を受けた場合は、自身の安全を確保した後、速やかに警察に通報することが最も重要です。また、可能であれば、その場の状況を記録(例えば、スマートフォンのカメラで撮影するなど)し、目撃者がいれば連絡先を控えておきましょう。自身の負傷についても、速やかに医師の診断を受け、診断書を保管してください。
法的な視点(暴言・クレームを含む):
悪質な暴言や威嚇行為は、状況によっては刑法の威力業務妨害罪に該当する可能性や、民事上の不法行為として損害賠償請求の対象となる可能性もあります。しかし、法的措置を検討する際は、証拠の収集や法的な判断が必要となるため、まずは会社に報告し、指示を仰ぐことが適切です。
重要な心構え:
交通誘導警備員は、社会の安全と円滑な機能を支える重要な役割を担っていますが、同時に、市民からの様々な反応に直面する可能性のある職業です。常に冷静さを保ち、 職業人として適切な対応を心がけることが、自身の安全と円滑な業務遂行に繋がります。
5.3 事例3:緊急車両の誘導を求められた場合
あなたが交通誘導をしていると、救急車が近づいてきました。 救急車は、工事現場の横の道を通って、病院へ向かう必要がありますが、道幅が狭く、交通渋滞が発生しています。 あなたはどう対応しますか?
この場面では、刑法の「緊急避難」の考え方が重要になります。
- 緊急避難: 救急車が、一刻も早く病院へ到着し、患者を救命することは、「自己又は他人の生命に対する現在の危難」を避けるために必要です。 あなたは、そのために、交通の流れを一時的に止めたり、他の車両に移動を求めたりする行為を行うことができます。 これは、「緊急避難」として認められる可能性があります。
ただし、緊急避難として認められるのは、あくまで「やむを得ない」場合に限られます。 例えば、救急車の到着を待つ時間がないほど、患者の容態が深刻である必要があります。 また、交通の流れを止める場合でも、できる限り、混乱を最小限に抑えるように努めるべきです。 緊急車両が通過した後、速やかに交通の流れを元に戻すようにしましょう。
5.4 事例4:万引き犯を現行犯逮捕した場合
これは交通誘導ではありませんが、あなたが商業施設で警備をしていると、客の一人が、商品をバッグに入れ、そのまま店を出ようとしました。 あなたは、その客を呼び止め、万引き犯として現行犯逮捕しました。 その後、どうすればいいでしょうか?
この場面では、刑事訴訟法の「私人逮捕」のルールが重要になります。
- 私人逮捕: あなたは、万引きという「現行犯」を目撃し、その客を逮捕しました。 これは、「私人逮捕」として認められます。
ただし、逮捕後は、速やかに、近くの警察署や警察官に、犯人を引き渡す必要があります。 自分で勝手に取り調べたり、罰を与えたりしてはいけません。 また、逮捕する際には、不当な有形力の行使は禁止されています。 必要以上に相手を傷つけたり、乱暴な行為をしてはいけません。 あくまで、逃げられないように確保する、必要最小限の力を使うようにしましょう。
もし、あなたが誤って人を逮捕してしまった場合、あなた自身が罪に問われる可能性もあります。 逮捕する前には、本当に万引き犯なのか、慎重に確認することがとても大切です。 可能であれば、他の店員や客に目撃証言を求めたり、防犯カメラの映像を確認したりすることも検討しましょう。
今回のまとめ
- 法律の知識は、警備員の仕事中の様々な場面で、あなた自身や周りの人を守るために役立つ。
- 具体的な事例を通して、憲法や刑法の原則が、実際の現場でどのように適用されるのかを理解することが重要。
- いざという時、冷静に、法律に基づいた適切な判断と行動ができるように、日頃から法律の知識を身につけておくことが大切。
次回予告
「法律って難しい」で終わらせないために
今回の連載では、憲法や刑法の基本的な考え方と、それが警備員の仕事にどのように関わってくるのかを解説してきました。 「法律って、やっぱり難しいな…」と感じた人もいるかもしれませんが、法律は、私たちの社会を支える大切なルールであり、私たちの権利を守るための心強い味方でもあります。 最終回となる次回は、これまでの内容を振り返り、法律を「自分ごと」として捉え、今後の仕事や生活に活かしていくためのヒントをお伝えします。
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